『インターネット・ポルノ中毒』の著者であるゲーリー・ウィルソン氏は、
アルコールやドラッグなどの依存性物質に関する研究や、ポルノ使用者・セックス依存症に関する研究をもとに、ポルノが持つ中毒性とそのリスクについて本の中で詳しく解説しています。
この記事では、ゲーリー氏の主張をできるだけわかりやすく整理し、ポルノ中毒の危険性について皆さんにお伝えしていきたいと思います。
ポルノが他の自然報酬と一線を画すわけ
本題に入る前に、なぜ私たちがポルノやセックスに依存してしまうのか、その理由を端的に表した一文をご紹介します。
性的な興奮と射精は、他の自然報酬のどれよりも高いドーパミンとアヘン類の水準を生み出す。ラット研究によれば、性的興奮で生じるドーパミン水準は、モルヒネやニコチン投与で引き起こされるものに匹敵するそうだ。
『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』p. 101
この一文を見れば、ポルノの中毒性がいかに高いかがわかると思います。
ちなみに、ラットの快感に関わる脳の仕組みは人間のものと非常によく似ていることも、こうした結果の裏付けとなっています(※参考文献2参照)。
違法ドラッグと同じくらいの量のドーパミン(「もっと欲しい!」という気持ちを生み出す神経伝達物質)が放出されるわけですから、きちんとコントロールしないと、あっという間にポルノに依存してしまう危険性があります。
しかも、インターネットポルノはスマホひとつで簡単にアクセスできてしまいます。もはや、誰もが「ポケットにドラッグを持ち歩いている」ような時代だと言っても、決して言い過ぎではありません
では、もしポルノ中毒になってしまったら、私たちの脳にはどんな変化が起こるのでしょうか?
中毒が引き起こす4つの脳変化
中毒研究では、中毒により以下の4つの変化が脳に生じると示されています。そして、この4つの変化こそがさらに深刻な中毒に導きます。
- 増感:渇望の強化
- 脱感:快楽への鈍化
- 前頭前野の機能不全:意志力の低下
- ストレス系不全:渇望増大、意志力の低下、無数の禁断症状
以下ではこの一つ一つの変化を見ていきます。
増感、渇望の強化
「増感(ぞうかん)」とは、一言でいうと「もっと欲しい…」という渇望の気持ちが強くなることを指します。
脳に快楽を感じさせるような刺激、たとえば中毒性のあるものが加わると、それに関係する神経細胞が活発に働き、徐々に成長していきます。
増感が起こると、こうした神経細胞の枝(シナプス)が増え、特定の中毒的な情報に対してより敏感に反応するようになるのです。
たとえば、ポルノを見て興奮するたびに、脳内の神経回路が少しずつ強化され、ポルノに反応してドーパミン(快楽や欲求に関係する脳内物質)がより多く分泌されるようになります。
つまり、ポルノへの渇望がどんどん強まっていく。これが、つい「ポルノが見たい!」という気持ちに日常的に駆られてしまう理由なのです。
脱感、快楽への鈍化
「脱感(だっかん)」とは、快楽に対する感度が鈍くなる反応のことを指します。
実際には、CREBという分子が働いてドーパミンの作用を抑え、快楽を感じにくくさせる仕組みです。
この脱感が進むと、中毒に関連した行動に対して耐性ができてしまい、以前と同じような快楽を得るには、より強い刺激が必要になります。
脱感は、「増感」とは逆の働きをして、中毒的な行動を抑えようとするメカニズムでもありますが、
現代の「超常刺激」ともいえるインターネットポルノの強さには、なかなか太刀打ちできないようです。
その結果、人間に本来備わっている「快楽を鈍らせる働き」が皮肉にも裏目に出て、さらに強烈なポルノを求めてしまうという悪循環に陥ってしまうのです。
前頭前野の機能不全、意志力の低下
脳の中で「前頭前野」は、いわゆる執行機能を担う重要な部分です。問題解決や集中力、計画性、結果の予測、そして目標に向かって行動する力など、私たちの意志力の源とも言える役割を果たしています。
ところが、ポルノを頻繁に利用する人やセックス依存の傾向がある人では、前頭前野の神経回路に変化が見られたり、執行機能が低下しているという研究報告もあるようです。
この前頭前野の働きが弱まると、「やるべきこと」よりも「今すぐ快楽を得られること」を優先してしまいやすくなります。その結果として、ポルノを我慢できず、つい繰り返し見てしまう。そんな行動にもつながってしまうのです。
ストレス系不全
中毒に陥ると、ストレス系不全を引き起こします。中毒は以下の3つの状態を作り出します。
- 渇望増大:ストレスはドーパミンとコルチゾールを増やして、ちょっとしたストレスでも激しい渇望を引き起こす。
- 意志力の低下:ストレスは前頭葉と執行機能を弱める。衝動抑制や、自分の行動を振り返って理解する能力を低下させる。
- 無数の禁断症状:中毒者は、中毒対象を取り入れないとストレス系が過剰に動作してしまう。無数の禁断症状のなかには、不安、うつ、疲労、いらだち、不眠、痛み、気分の揺れなどが含まれる。
まずは4つの脳変化=中毒に気づいてみよう
ここで、これまでに紹介した4つの脳の変化について、少し立ち止まって考えてみましょう。
もし心当たりがあれば、あなた自身もポルノ中毒の傾向があるかもしれません。
たとえば、仕事で疲れた日やストレスがたまったとき、ついポルノを見たり自慰をしたくなることはありませんか?それはもしかすると、ストレスによる神経系の不調で「渇望」が強まっていたり、すでに「増感」が進んでいるサインかもしれません。
また、一日に何度もポルノを見たり自慰を繰り返してしまうようなことはないでしょうか。
このような行動が止まらない背景には、「脱感」によって、以前と同じ刺激では満足できなくなっている状態が隠れている可能性があります。
さらに、何よりも大事な時間やエネルギーをポルノに費やしてしまっているなら…
それは、前頭前野の機能が弱まり、自制心や判断力がうまく働かなくなっている証拠かもしれません。
最後に
本記事を見つけていただきありがとうございます。
今回はゲーリー氏の意見を参考に、ポルノ中毒の仕組みを簡潔に説明させていただきました。
自分の人生をどのようにしたいのか。ポルノ視聴や自慰にどのていど時間とエネルギーを注ぎたいのか。ここまで真剣に考えられたときに、人は変わろうと思えるのだと信じています。
「4週間で依存症の禁断症状がでなくなるといった研究」もあるとおり、ポルノ断ち、いわゆる「ポル禁」を続けて一定の期間が経てば、ポルノ中毒から抜け出すことは十分に可能です。
とはいえ、ポル禁がとても難しいことだというのも、よくわかっています。
だからこそ、ポル禁アカデミーでは、ポル禁にチャレンジする皆さんを全力で応援するために、さまざまなサービスを通じてサポートしています。
一人じゃありません。いっしょに頑張っていきましょう!
参考資料
- 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 ゲーリー・ウィルソン 山形浩生[訳]
- 『快感回路 なぜ気持ちいのか なぜやめられないのか』 デイヴィッド・J・リンデン 岩坂彰[訳]