ポルノ断ちを実践している人のあいだで、しばしば挙がる疑問に「どこまでがポルノになるのか?」というものがあります。
結論から言えば、自分が性的に興奮する情報はすべてポルノです。勃起や性的興奮が生じた時点で、それはポルノとみなせます。
「ポルノコンテンツ」の再定義
この考えをお伝えするにあたり、はじめに、ポルノ断ちにおける「ポルノコンテンツ」とは何かを定義しておく必要があります。
いったいポルノってなんでしょうか?
字義どおりに考えると、官能小説は「ポルノ小説」としてポルノに含まれるかもしれません。一方で、「文章は映像ほど露骨ではないからポルノとは言えない」と考える人もいるでしょう。
さらに近年では、VR映像や音声コンテンツなど、新しい形のメディアも登場しています。これらのジャンルをポルノとみなすべきかどうかについても、意見は分かれます。
加えて、特定のフェティシズムを持つ人にとっては、一般的には何の刺激も感じないものが「ポルノ」として機能する場合もあります。
このように、字義的あるいは辞書的な意味に頼ると、混乱が生じやすくなります。定義づけがうまくいきそうにありません。
したがって、ここでは「ポルノ断ちを実践している人にとってのポルノ」を基準に、その意味を明確に定義します。
ポルノ断ちという行為の目的そのものから定義を導くことで、混乱を避け、よりすっきりと理解できるようになります。
ポルノコンテンツ=ポルノ回路を活性化する情報
ここで、ポルノ断ちの主な目的を「ポルノによって過剰に刺激されてきた神経回路の活動を落ち着かせ、脳内の報酬システムを健全な状態に再調整すること」とします。
ここでいう「神経回路」とは、PMO(Pornography・Masturbation・Orgasm:ポルノ・マスターベーション・オーガズム)行為の際に活性化する脳の部位を指します。便宜上、これをポルノ回路と呼びましょう。
このポルノ回路を落ち着かせるためには、その回路に信号を送らないことが重要です。言い換えれば、ポルノ回路を鎮め、活性化させないことこそが、ポルノ断ちの本質的な目的といえます。
したがって、ポルノ断ちにおいては、どのような情報であっても、それによってポルノ回路が活性化されてしまうなら、その情報はポルノと見なすことができます。
ポルノコンテンツ=ポルノ回路を活性化する情報
これがポルノ断ちの目的に沿ったポルノコンテンツの再定義です。
少々長くなってしまいましたが、本記事のテーマである「どこまでがポルノに含まれるのか」は、「ポルノ回路が活性化するか否か」を基準として考えることになります。
ポルノ回路の活性化∝主観的な性的興奮∝勃起の程度
では、実際にポルノ回路が活性化しているかどうかは、どのようにして観測できるのでしょうか。
実は簡単な調べ方があります。
神経科学者デイヴィッド・J・リンデン氏は著書『快感回路』の中で、ポルノコンテンツを利用している際に、脳内の報酬系(快感回路=ポルノ回路)と主観的な性的興奮、そして勃起の程度が強く関連していることを紹介しています。
性的な画像を見たとき、男性も女性もVTAと側坐核、背側線条体など、快感回路の中心部が激しく活性化した。『快感回路』 p. 142
つまり、ストレートでもゲイでも、脳の活性化と主観的な興奮と性器の反応はすべて一致するようである。 『快感回路』 p. 146
この研究結果から分かるように、強い性的興奮や勃起が生じているとき、脳内のポルノ回路も同時に活性化していると考えられます。
まあ、でも驚きませんよね。おそらく多くの人が経験していることだと思います。
いつもより長時間、刺激の強いポルノを見ているときに、脳が熱を帯びたり、ぼんやりするような感覚を覚えたことがあるはずです。あの感覚こそ、ポルノ回路が強く活性化している状態だと考えられます。
まとめると、次の比例関係が成り立ちます。
ポルノ回路の活性化 ∝ 主観的な性的興奮 ∝ 勃起の程度
したがって、ポルノ断ちにおいては、ポルノ回路を活性化させるあらゆる情報が「ポルノ」と見なされます。そして、その判定基準は、自分がどの程度性的に興奮するか、さらに言えば、どの程度の身体的反応(勃起)を伴うか、にあります。
この定義のもとでは、人によっては日常的なイメージや音、あるいは何気ない視覚刺激さえもポルノとなり得ます。つまり、何がポルノとなるかは個々の感受性や性的傾向によって異なる、きわめて主観的なものなのです。
この比例関係は、ポルノ断ちを成功させるうえで覚えておきたい重要なポイントです。
過度に心配はしないこと
ここまで読んで、「じゃあ妄想すらしてはいけないの? フツーに勃起するんだけど」「ドキッとするし18禁広告が目に入ったらもうポルノ断ち失敗なの?」「普通の写真も見られないの?」と不安に思う人もいるかもしれません。
結論から言えば、心配しすぎる必要はありません。
一時的に軽い性的刺激を受けたとしても、それが直ちに依存へとつながるわけではありません。ごく小さなポルノ的刺激によってポルノ依存が再び強化される可能性は、一般的には低いと考えられます。もしそうでなければ、社会はすでにポルノ依存の人であふれているはずです。
ただし注意点として、刺激が弱いコンテンツでも繰り返し利用すると、より過激な刺激を求めてしまう傾向があります。本気でポルノ断ちをしたい場合は、もっとも刺激が低いと思われる「妄想」を含め、可能な限りポルノは利用しないほうがいいでしょう。
比例関係式を判断基準にして、ポルノ断ちを着実にすすめる
若干話がそれてしまいましたが、本記事で伝えたかったことは「性的興奮を引き起こす情報はすべて排除すべきだ」という極端な話ではありません。
上述の比例関係式「ポルノ回路の活性化 ∝ 主観的な性的興奮 ∝ 勃起の程度」を、うまくポルノ断ちに活用してほしいという思いで本記事を執筆しました。
この比例関係式を判断基準にして、どのような情報によって自分のポルノ回路がどのように反応するかを観察しながら、ゆっくりしかし着実にポルノ断ちを進めていただきたいのです。ポルノ断ちは完璧でなくてもいいんです。
たとえば、もし「最近ポルノに依存気味かも…なかなかポルノ利用をやめられない…」という状況にあるならば、まずは脳にとって刺激の弱いコンテンツに切り替えてみてください。
刺激の弱いコンテンツとは…? もうお分かりのとおり、その際の判断基準はシンプルです。自分の性的興奮の度合いと、勃起の強さを目安にしよう、ということです。
このように、比例関係式はポルノ断ちを上手に進めていく際の大切な判断基準になるのです。
以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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参考資料
1. 『快感回路 なぜ気持ちいのか なぜやめられないのか』 デイヴィッド・J・リンデン 岩坂彰[訳]