「日本の論文を一緒に読もう」シリーズでは、日本で発表されたポルノ依存症関連の研究論文を、みなさんと一緒に丁寧に読み解いていきます。
オープンアクセスの論文については本文へのリンクも併せて掲載しますので、興味があればぜひ全文を確認してみてください。
研究は必ずしも答えをくれるものではありませんが、論文を読み進めることで「自分のポルノ断ちを改善するためのヒント」が見つかることがあります。
本シリーズは、すべての研究者の知見に敬意を払いながら、実践に役立つ知恵を探っていく場です。一緒に学んで、よりよい方法を見つけていきましょうね。
ご紹介する論文について
今回皆さんにご紹介する論文のタイトルは「ポルノグラフィの問題ある利用が引き起こす生活問題の検討 ─生活支障度、精神健康、生活時間の関連─」です。
残念ながら、この論文は現在ウェブ上ではオープンアクセスになっていません。閲覧するには東京の国立国会図書館に来館する必要があります。詳しくはこちらの国立国会図書館サーチをご覧ください。来館が難しい場合は、代金を支払いコピーの郵送を依頼することもできます。
前回取り上げた論文(2021年)と同じく、こちらも2022年に兵庫教育大学で発行されています。同じ著者らによる論文で、性依存・問題のあるポルノ利用といったテーマで引き続き研究を推し進めていることがわかります。
日本では、ポルノ利用の問題に関する研究はまだまだ数が少なく、学術的にも未開拓の部分が多く残されています。そんな中で、困難なテーマに正面から取り組み、継続的に成果を発表し続けている研究者の姿勢には、心から敬意を表したいと思います。リスペクトです。
ポルノ依存症に関する貴重な量的研究
この論文の素晴らしい点は、なんといっても男女1,011名を対象に大規模なアンケート調査を実施し、PPU(問題のあるポルノ利用)の実態と、それに関連する生活上の問題を明らかにしているところにあります。
日本国内では、ポルノ依存症をテーマにここまで大規模な量的データを扱った研究はほとんど存在しません。その意味でも、この論文は非常に貴重であり、今後の議論や支援の基盤となる重要な研究だと言えるでしょう。
研究の概要
簡単ではありますが、この研究の概要を以下にまとめました。
・対象者:日本の一般成人 1,011名(男性502名、女性509名、平均年齢約36歳)
・方法:インターネット調査
・測定した主な4つの指標:
(1) 「ポルノの問題ある利用(PPU)」の程度
(2) 生活支障度(仕事・家庭・人間関係などへの悪影響)
(3) 精神健康(抑うつ・不安症状など)
(4) 生活時間の犠牲(ポルノ利用のために他の活動を犠牲にする時間)
得られた主な結果と考察
今回の研究では、4つの測定項目について、先行研究で信頼性と妥当性が確認された尺度を用いてデータが収集されました。各指標に対して統計的な分析が行われ、その結果、次のような重要な知見が明らかになっています。
- 問題あるポルノ利用(PPU)は、さまざまな形で生活上の支障を引き起こしていた。
- PPUが高い人ほど、抑うつや不安といった精神的問題との関連が見られた。
- PPU群は男性に多く、生活時間のさまざまな領域を犠牲にしている割合も高かった。
- PPUの3つの中核的特徴(制御不能・過剰利用・対処的利用)は、いずれも多方面の生活問題と関連していた。
PPUを便宜的に「ポルノ依存症」とみなして扱う理由
ここから先の記事では、わかりやすさのために 「PPU(Problematic Pornography Use)」を便宜上「ポルノ依存症」として扱うことにします。その理由を先に説明しておきます。
まず、本論文ではPPUについて次のように定義されています。
Problematic Pornography Use (PPU)は、ICD-11に認定された強迫的性行動症の主要な行動症状である。
現在の医療・学術の世界では、公式に「ポルノ依存症」という診断名は存在せず、明確な定義についても統一した見解はありません(関連記事:ポルノ依存症の定義を考える)。
一方で、ポルノ依存症に最も近い概念として位置づけられているのが、ICD-11に記載されている強迫的性行動症(CSBD)です。そして、その主要な症状のひとつがまさに PPUです。
この関係性を踏まえ、本記事では理解しやすさを優先して「PPU=ポルノ依存症」という形で話を進めていきます。
もちろん、これは便宜的な整理であり、医学的な正式名称として使われているわけではない点については、あらかじめご了承ください。
この研究結果をポル禁にどう活用するか?
今回の論文から得られた知見は、ポルノ断ち(ポル禁)を実践している方にとっても、とても参考になる内容ばかりです。ここでは、その中でも特に役立ちそうなポイントをピックアップしてご紹介します。
PPUの3つの中核的特徴を、「ポル禁の成否」をはかる指標にする
論文では、先行研究を踏まえて問題のあるポルノ利用(PPU)を特徴づける3つの要素が挙げられています。これは、ポルノ断ちを続けるうえでの「簡易セルフチェック」として非常に活用できます。
PPUの3つの中核的な特徴
1. ポルノを使いすぎてしまうこと
2. ポルノ利用のコントロールがきかないこと
3. つらい気持ちを紛らわせるために使うこと(「ポル逃げ」とでもいいましょうか)
ポルノ利用をやめたい、減らしたいと考える人にとっては、この3つがどれだけ改善したかが、ポル禁の成功を見極める1つの目安になります。
たとえば4週間ポルノ断ちをして、3つの中核的な特徴がすべて現れなかった場合は「ポルノ依存症ではなく、ポルノ断ちは成功した」と考えることができます。
また、いったんポル禁を終えてポルノを再開した場合でも、この3項目はとても役立ちます。
「最近、ちょっとポルノを使いすぎてはないか?」「ポルノ利用をコントロールできているか?」「つらいときに使っていないか?」
こうした問いを自分に投げかけることで、再び依存的な使い方に傾いていないかを手軽にセルフチェックできます。
改めてポルノ依存症の深刻さを感じる
また、本研究から得られた結果からは、ポルノ依存の深刻さがうかがえます。
PPU群(問題あるポルノ利用者)では、ポルノ視聴のために さまざまな生活時間を犠牲にしている ことが示されました。特に、最も削られていたのは 睡眠時間 で、これは日常生活の質に直結する大きな問題です。
さらに、PPU群には 気分障害や不安障害などの精神的な不調 を抱えている人が多いことが確認されました。加えて、仕事や学業のパフォーマンス、家族とのコミュニケーションの質など、日常のさまざまな領域にも悪影響が及んでいる傾向が見られます。
これらは、約1,000人という規模で行われた調査による結果です。数字で示されると、やはり説得力がありますし、「こんなにも影響が大きいのか」と気が引き締まる思いがします。
この研究は、依存傾向があると感じている人にとって「本気で向き合う必要性」を強く示してくれるものです。ポルノ断ちに取り組む意義を改めて実感させられますね。
「過剰な病理化」を助長しないために
今回紹介した論文では、次のような指摘がありました。
つまり、たとえ高頻度のポルノ利用であっても、自信や周囲に支障が生じていないのであれば、PPUには該当せず、状況に応じては肯定的な影響をもたらすと考えられる。
この指摘は、ポル禁アカデミーが男性419名を対象に行った独自アンケート調査の結果とも一致しています。
私たちの調査でも、週7回・1回2時間以上利用するヘビーユーザーの中に「人生がとても充実している」と答えた人がいる一方で、週1回・5分未満しか利用しない人でも「人生がまったく充実していない」と回答した例がありました。
つまり、ポルノの利用時間と人生の充実度には直接の因果関係がないということです。
利用時間や頻度だけで「ポルノ依存症」と判断してしまうと、論文でも示唆されているように、「過剰な病理化」を招いてしまいます。
とくに、「ポルノはよくないものだ」という思い込みによって、本来は健全に利用できている人まで不必要に不安にさせてしまうのは避けなければなりません。
これは、特に「ポルノ断ち」を推奨する立場にある人が注意すべき点です。ポル禁アカデミーとしても、情報発信の際にはこの点に十分配慮していきたいと考えています。
ポルノは娯楽として適度に楽しめているうちは問題ありません。ただし、いつ自分がコントロールを失うかは誰にもわかりません。そのためにも、普段から自分の利用パターンを振り返り、必要に応じてコントロールできる力を育てておくことが大切です。
まとめ
今回ご紹介した論文は、日本におけるポルノ問題を明らかにした非常に重要な研究といえるでしょう。
これまで、日本では一般成人を対象に、ポルノ利用と生活・精神健康の関連を量的に検討した研究はほとんどありませんでした。その意味でも、今回の論文は国内における 先駆的データとして位置づけられるでしょう。
研究の結果、PPU(問題あるポルノ利用)は、生活・精神・時間の3つの側面に悪影響を及ぼす可能性があることが明らかになりました。これは、ポルノ依存の深刻さを改めて実感させるものです。
今後は、PPUに対する心理的支援や介入策、教育や予防の方法についての研究がさらに求められています。日本でもこうした取り組みが進み、ポルノ依存症への理解が広がり、支援策が充実していくことを心から願っています。
そして、そのときこそポル禁アカデミーが役目を終える日かもしれません。啓蒙や独自調査の必要がなくなるほど、社会全体で問題の理解と対策が進んでいるということですから。
以上です。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
ポルノ断ち、無理せずがんばっていきましょうね!
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