ポルノ断ちにおける「PMO」とは「Porn, Masturbation, Orgasm」の略語です。
つまり、
PMO = Porn, Masturbation, Orgasm = ポルノ視聴、オナニー、射精
という、現代人のマスターベーションの一連の流れのことを指します。
PMOは、現代の男性の一般的な自慰行為のプロセスを端的に示した用語であり、ポルノ依存症に関する議論においても使い勝手の良い概念といえます。
海外のオナ禁コミュニティや論文で使用される生きた言葉
ポル禁アカデミーは、海外のオナ禁コミュニティや関連論文を調査するなかで、この用語「PMO」を知りました。
オナ禁コミュニティにおける使用例
たとえば、海外最大級の Reddit のオナ禁コミュニティである「r/NoFap」では、PMO は次のように定義されています。
PMO: Porn/Masturbation/Orgasm. They come together like a Happy Meal and the toy.
(仮訳:PMO: ポルノ/マスターベーション/オーガズム。この3つはハッピーセットのおもちゃみたいにいつも抱き合わせになっている。)
https://www.reddit.com/r/NoFap/wiki/faq/#Glossary
言い得て妙ですね。
ポルノ視聴だけでも、マスターベーション行為だけでも、物足りない。やはり、この3つがセットになってこそ、最もハッピーな気持ちになれるわけですので…
ポルノ依存症関連の論文における使用例
研究論文においてもPMOやMOといった用語は頻繁に使用されています。
さらに概念を広げたAPMという略語も使われていました。たとえば、次の研究では以下のように記述されています。
Within the OM, there are many anecdotal reports of significant benefits through abstinence from pornography and masturbation (=APM).
『A Period of Abstinence from Masturbation and Pornography Leads to Lower Fatigue and Various Other Benefits: A Quantitative Study』、Journal of Addiction Science, 2022
ここでの APM とは、Abstinence from Pornography and Masturbation(ポルノ視聴とマスターベーション断ち)を意味し、いわば「ポル禁+オナ禁」を包括する概念です。
このように、PMO・MO・APM といった略語は、海外の研究およびコミュニティ双方で共通して使用されており、ポルノ依存症や関連する行動研究を理解するうえで重要なキーワードとなっています。
ポルノ断ちの解像度を上げる言葉
PMO は、ポルノ断ちにおける「何を断つべきなのか」という本質をより明確にしてくれる概念です。
以前、こちらの記事(用語の定義 ー「オナ禁」を「射精禁」と「ポルノ禁」に分けて考えるー)でも取り上げたように、オナ禁とポル禁(ポルノ断ち)は明確に異なります。
PMOという枠組みを導入すると、これらを次のように簡潔に整理できます。
オナ禁 = PMO禁(ただし、O禁やMO禁を指す場合もある)
ポル禁 = P禁
以下で詳しく説明していきます。
オナ禁とは
オナ禁の定義は「あらゆる形の自慰行為を行わないこと」であり、その意味ではポル禁より広い概念を含みます。
また、次の文献が示すように、現代の一般的な自慰行為のスタイルは PMO が主流であるため、実質的にオナ禁は PMO 禁と重なるケースが多いと考えられます。
なお,娯楽的なポルノ利用者と同様に,問題あるポルノ利用者においても,ポルノ利用と自慰行為は同時に行われることが多い(e.g., Bothe et al., 2018)。
『性依存に関する研究動向と課題─問題あるポルノグラフィ利用の特徴から介入に向けて─』発達心理臨床研究、第27巻、2021年、p.49
一方で、実践者のあいだでは
- 「オナ禁中でもポルノ視聴はOK」
- 「射精さえしなければよい」
などの見解も存在し、オナ禁 = O禁やMO禁として扱われることもあります。
さらに、セックスによる射精を許容するかどうかでも意見が分かれ、オナ禁の定義は必ずしも統一されていません。
ポル禁(ポルノ断ち)とは
ポルノ断ちは、オナ禁と比べて定義の混乱が少ない概念です。PMO で示すならP禁に相当します。
基本的には、マスターベーション(M)や射精(O)そのものを禁止するわけではありません。
そもそも、現代の科学技術(スマートフォン、高速インターネット、そして視覚刺激の強い高品質ポルノ)によって生み出された環境こそが、時として人間の脳に過剰な刺激を与え、望ましくない状態を生じさせています。
インターネットポルノが普及する以前の時代には、現在のように「ポルノ依存症」を独立した概念として扱う研究はほとんど見られませんでした。
また、当時の低刺激なポルノによるマスターベーションや射精は、依存形成リスクが比較的低く、健康上大きな問題を引き起こす可能性も現代より低かったと考えられます。
なお、この「低刺激」の意味についてはこちらで議論しているように、脳を過剰に活性させない=強い勃起を伴わない刺激レベルを指します。
以上を踏まえると、ポル禁の定義はより厳密には次のように表現できます。
ポル禁 = P禁(ただし、Pは超常刺激といえる現代インターネットポルノのみを指す)
その人にとって適切な頻度であれば、低刺激のポルノを伴うMOを行っても、大きな問題に発展するケースは多くありません。
とはいえこの定義は前衛的すぎるかもしれません。
P禁を超常刺激レベルのポルノに限定して、低刺激のポルノは許すのか。ここからの選択は、ポルノへの依存レベルや年齢といった個人差や、ポルノ断ちの目的によって、変わっていくものだと思います。
ただし、低刺激ポルノやMOにも注意が必要
注意しなければならない点として、人間は快楽の記憶に非常に敏感であるため、低刺激のポルノや、MOであってもそれがトリガーとなり、結果として高刺激ポルノへ戻ってしまう可能性があります。
ポルノ断ちの名著『インターネットポルノ中毒』でも、次のようなアドバイスが示されています。
再起動中は自慰はやめるべき? 必ずしもそうとは限らない。まずポルノ、ポルノ妄想、ポルノ代替物を先に排除しよう。人によってはそれだけでバランス回復には十分だ。人によっては、自慰はポルノ経路活性化の強力なトリガーなので、そちらもしばらく控えたほうがいい。
『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』p. 208
このような理由から、たとえP禁であっても、低刺激ポルノやMOとの関わり方には一定の注意が必要になります。
PMO のどの部分を断つのかを明確にする
オナ禁は人によって定義が曖昧で、
- O 禁(射精だけを禁じる)
- MO 禁(マスターベーションと射精を禁じる)
- PMO 禁(ポルノ、マスターベーション、射精をすべて禁じる)
など、解釈に幅がありました。
一方、ポルノ断ちはあくまで 高刺激の「P禁」 のみを指す概念ですので、人によっては低刺激のポルノを伴うMO やポルノを利用しないMOは許容してもよいという考えもあります。
ただし、その場合でも低刺激のポルノやMO自体がトリガーとなって高刺激ポルノに戻る可能性があるため、注意が必要であるという点をお伝えしました。
そのため、オナ禁にせよポル禁にせよ、実践する際には、
PMO のうち「P(ポルノ)」「M(マスターベーション)」「O(射精)」のどの部分をどのような目的で断つのか
を最初に明確にすることがとても重要です。これをはっきりさせることで、目的がぶれにくくなり、効果の測定もしやすくなります。
目的を見失わず、ゆっくり取り組むことが大切
いつだって大切なのは、なぜポルノ断ちをするのかという目的です。
ポルノ断ちによって何を得たいのか、どんな状態を目指すのかを日々意識しつつ、完璧主義になりすぎずゆっくりと着実に取り組んでみてください。
そして効果を実感できたなら、自分に合ったペースで続けてみてくださいね。
以上です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
何かご質問等ございましたら、本記事下部のお問い合わせからご連絡ください。
参考文献
- 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 ゲーリー・ウィルソン(著)、 山形浩生[訳]
- 『性依存に関する研究動向と課題─問題あるポルノグラフィ利用の特徴から介入に向けて─』発達心理臨床研究、第27巻、2021年
- 『A Period of Abstinence from Masturbation and Pornography Leads to Lower Fatigue and Various Other Benefits: A Quantitative Study』、Journal of Addiction Science, 2022
- reddit: https://www.reddit.com/r/NoFap/wiki/faq/#Glossary